あのバレンタインデーより一月が経過したある日、屋敷では緊迫した空気が流れていた。
「・・・御館様、これは何の冗談でしょうか?」
常には信じられない低い声で夫に問い詰めるのは七夜真姫。
「冗談でこんなふざけたもん出すか。これは七夜の男共、全員の総意だ」
真姫に負けず劣らぬ低い口調で言い返すのは七夜黄理。
今屋敷には志貴達はいない。
まあ・・・いたとしても両親の発する殺気に等しい空気の前には即座に逃げ出していただろうが。
「女性陣を代表してこの様な理不尽な掟には従えません」
「お前達の意思なんぞ問題にしていねえよ。あんな劇薬、俺達に毎年食えと言う気か?」
「あれは!!私達の愛情表現の差異です!!」
「ふざけんな!あれの所為で『七つ月』の機能は完全に停止していたんだぞ!その時に遠野なりの襲撃を受けていたらどうするつもりだったんだ!!」
この夫婦が珍しく荒れている原因は黄理を始めとする男性陣が出した新たなる掟だった。
曰く『今後女衆は和洋関係なく菓子製造に携わる事を一切禁ずる』
あのバレンタインデーにおける惨劇で七夜の男性陣は全快に二週間と言う膨大な時間を必要とした。
それはすなわち『七つ月』の機能はおろか七夜の防衛体勢すらこの二週間完全に麻痺してしまったことも意味していた。
今回こそ黄理の言っていた『混血の襲撃』と言った最悪の事態こそ無かったが、この様な事が続けば不届き者がその隙を狙い襲撃を仕掛けてくるのは眼に見えている。
だからこそそれを防ぐ為当主として当然の義務を黄理は行使しているに過ぎない。
だが、真姫達にとっては自分達をアピールできる絶好の機会を潰される事も意味している。
到底受け入れられなかった。
受け入れられないのだが、黄理の言い分も判る為強く反対を言い続ける事も出来ない。
「・・・とにかく私は女性陣の意見を纏めます」
「ああそうしてくれ。俺としてもこれ以上のごたごたは勘弁してもらいたいからな」
そして場所を変えて里中心部に主だった女性陣が集まっていた。
「本当なの?義姉さん!!」
真姫の報告に悲鳴に近い声を出すのは妃。
「ええ、私も随分反対したのだけれど、混血の襲撃の恐れを指摘されると強く言い出せなくて・・・」
「でも私は反対よ!!」
「そうよ!!料理には失敗があるのが当然よ!!」
「それをいくら一族の一大事だからって男達の都合で禁止なんてさせないわよ!!」
「でもどうするの?男衆はおそらく本気よ。下手をすれば一戦交えるのも覚悟の上で」
妃の冷静な指摘に全員思わず黙り込む。
「・・・で、どうするんだい?必敗も覚悟の上で男共とやらかすかい?それとも泣き寝入りするかい?」
今まで黙っていた七夜富美が全員に尋ねる。
「・・・私はやるわ」
まず妃が口火を切る。
「良いのかい?」
「はい、富美叔母さま。夫とも戦います。例え私一人だけになったとしても」
「じゃああたしも付き合うか。文句ばっかり垂れてるうちの人をぎゃふんと言わせましょうか」
これをきっかけとして、次々と賛同の声が上がる。
そして最後に迷いに迷っていた真姫が決意に満ちた表情で断言した。
「・・・判ったわ。皆、私も御館様と戦います。そして私達の正当な権利をえましょう」
静かに頷きあう女性陣。
この時こそ『七夜南北戦争』事実上の開戦を意味していた。
「じゃあ皆、他の皆にも声をかけて、賛同者を少しでも多く募りましょう。それと妃」
「何、義姉さん?」
「あなたは子供達を味方に引きつけてくれない?女の子達は大丈夫だと思うから男の子達をお願い。特に晃君・誠君・そして」
「志貴君もでしょ?」
「ええ。難しいと思うけど、この三人がこっちの味方になれば男の子達の大半はこっちに付くわ」
「判ったわ。じゃあ皆」
頷き全員それぞれの方向に散っていった。
だが、それを物陰から見ていた者もいた。
その者は気配が完全に散ったのを確認して屋敷に向かって駆けて行った。
「それは本当か?」
「はっ、既に真姫奥様、妃様、富美様を主として女衆が決起を決意した模様です」
「ちっ・・・急ぎすぎたのが裏目に出たな」
「だが、事を急がねば成らなかったのもまだ事実だぞ黄理」
屋敷で間者の報告を聞いていた黄理は苦虫を噛み潰した表情で俯き、楼衛も苦々しい表情だが強い口調で言う。
「とにかくこれからどうするかだ黄理。こちらも戦力を再編せねばなるまい」
「・・・そうだな。兄貴は男共をこの屋敷に集結させてくれ。それと王漸の爺さん、あんたは子供達を、特に志貴・晃・誠は是が非でもこっちに引き込め」
「任せろ」
こうして目まぐるしく事態は推移を始める。
たちまち黄理を中心とする男達は里北に位置する屋敷を本陣とし集結を始め、真姫達女性陣は南部中心にある王漸の家を本拠地として、既に防衛体制を整えていた。
こうして『七夜の里』は南北真っ二つに分断された。
総合戦力バランスはこの時点で互角、男達は個々の戦闘力は高いが、周辺は身を隠す箇所が限られており守りにくい。
それに対して、女性陣は個人の戦闘力は低いが周辺は民家が点在しており横の連携による奇襲を可能としている。
ゆえに現時点でこの戦争の帰趨は子供達が握っていると見て間違いなかった。
さて、当の子供達だが・・・今日は訓練が休みなのを受けていつもの様に全員揃って遊び、そして夕暮れが迫る頃、皆揃って帰路についていた。
「あ〜楽しかった!」
「本当本当」
「今日の夕飯なんだろうな!」
とそこに
「おっやっと帰ってきたか」
「待っていたわよ!!」
王漸と妃が駆け寄ってきた。
「あれ?お爺ちゃん??」
「妃小母さん??」
「「皆良く聞いてくれ(ね)」」
と、全員に事情を話す。
「だから、先日の惨劇を防ぐ為に」
「だからね皆、私達が普通にお菓子を作れるように」
「「協力してくれない(か)??」
その瞬間、王漸の方には男の子達が、妃には女の子達が一瞬で分かれた。
「ちょっと!!何でそっちに行っているのよ!!」
小夜が男の子達に噛み付く。
「だってあのチョコ不味いし」
「毒物耐性訓練を受けてる筈の俺達ですら死に掛けたんだぜ!!」
「あんな生ゴミもう食えるか!!」
「ひっどーーーい!!」
「せっかく私達が真心込めたチョコ食べられないって言うの?」
「食えるか!!俺達で人体実験するんじゃねえ!!」
「そうだよ!僕達にだって忍耐の限度があるんだ!!」
「もうあったま来た!!絶対あんた達泣かせてやるんだから!!」
まさしく売り言葉に買い言葉、
過激な喧嘩文句を投げ付けながら子供達も睨み合う。
とそこへ
「ん??おい、志貴に晃と誠は?」
両陣営が是が非でも引き込みたい三人がいないのに気付く。
「そう言えば三人ともいないわ。翡翠ちゃん琥珀ちゃん知らない?」
「志貴ちゃんだったら」
「晃君達と最後に少し遊んでから帰るって言っていたからもう直ぐだと思うよ」
「あらまたなの?じゃあ翡翠ちゃん琥珀ちゃん、雪ちゃん小夜ちゃん、直ぐに三人を私達の方に引き寄せて。私達は富美叔母さまの家に集まっているから」
「「「「はい!!!」」」」
一斉に頷き四人は駆け出す。
「!!こうしちゃいられねえ!!お前ら!!直ぐに志貴達を引き止めて来い!!俺達は本陣を屋敷に構えているからな!」
『うん!!』
男の子達も一斉に駆け出した。
一方この戦争・・・いや、内輪揉め・・・のキーパーソンに知らぬ内に成り果ててしまった志貴・晃・誠・・・後に七夜表の当主と『裏七夜』頭目として活躍する三人・・・はと言えば・・・必死に走っていた。
なぜか?一緒に帰ろうとした所、例によって晃に引き止められ木登り競争を延々と続ける羽目になり夕暮れ間近になって大慌てで帰路に着こうとしている。
「うわっすっかり遅くなっちまった!!母ちゃんに怒られる!!」
「全く晃がいけないんだよ。後一回後一回って伸ばすから!」
「急ごう!!取り敢えず『晃に引き止められました』って言えば母さんも妃叔母さんも納得するから」
「それもそうか」
「おい!!きたねえぞ!!志貴!誠!俺のせいにする気かよ!」
「「というかお前(君)のせいだろ!!」」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらそれでも里も目前と言う時。
「「志貴ちゃん!!!」」
「あれ?翡翠ちゃん?琥珀ちゃんも?どうしたの?」
「はあはあ・・・」
「ヒスちゃんもコハちゃんも早すぎるよぉ〜」
「へっ?雪?」
「小夜ちゃんも?」
きょとんとしながら立ち止まる三人。
「「志貴ちゃん!!」」
と翡翠・琥珀が志貴の両手を引っ張る。
更には雪と小夜も
「晃・・・」
「誠!!」
晃と誠の手をやはり引っ張る。
「えっ?ど、どうしたの?翡翠ちゃん、琥珀ちゃん」
「晃・・・いこ」
「ちょっと待て、雪」
「ど、どうしたのさ?小夜ちゃん?」
「良いからあんた達はあたし達と一緒に来れば良いの!!」
訳もわからずズルズル引き摺られる志貴達だったが、
『行っちゃ駄目だーーーー!!!』
男の子達が全員駆け出してきた。
「へっ?皆?」
「おいどうしたんだよ?揃いも揃って」
「志貴行ったら駄目だって!!」
「志貴ちゃんは私やお姉ちゃんと一緒に来るの!!」
「駄目!!晃・・・」
「誠・・・あんたまさかあたしの言う事聞けないって訳じゃないわよね?」
事情もわからず呆然としている志貴達を間に挟んで罵りあいが続いていた。
やがて・・・
「ねえ皆・・・」
ようやく茫然自失から回復した志貴が代表して尋ねる。
「一体何があったの?皆して血相かいて」
「これが慌てずにいられるか!!」
「そうだよ!志貴、僕達皆の命の危険なんだから!!」
「命の危険って失礼ね!!」
「そうよ!!私達が心を込めて作ったチョコなのに!!」
「「「!!!」」」
びくりと志貴達三人が震え上がる。
「み、皆・・・」
「おい・・・まさかと思うがまた作ったのか?女達?」
「あの毒物・・・もとい、廃棄物・・・いや違う・・・チョコもどきを?」
「「むっ」」
怯えた三人に翡翠と小夜はむくれ
「・・・」
琥珀は不安そうに志貴を見やり
「・・・・・」
雪は晃の手を両手でしっかり掴んだまま放そうとしない。
「いや作っていない」
その言葉に露骨にほっとする三人。
「でもあれを毎年食わされるかどうか瀬戸際なんだよ!!」
「瀬戸際??」
「ほら御館様が出すって言っていた新しい掟覚えているだろ?」
「ああ、僕達含めて男子全員賛同した?」
「菓子作り禁止の?」
「それがどうかしたのかい?」
「それの廃止を求めて母ちゃん達が反乱起こしたんだよ」
その言葉にいち早く反論する。
「反乱じゃないわよ!!決起よ決起!!」
「うん決起・・・」
「私達の正当な権利を得る為にお母さん達は立ち上がったのよ!」
「だからね・・・私達が勝つのに志貴ちゃん達が必要なの・・・」
そう言って琥珀は更に強く志貴を引っ張る。
「そうよ!誠あんたはあたし達と一緒に来なさい!!そうしたら毎年あんただけにチョコやるから!!」
「晃来て・・・お願い」
雪と小夜も晃と誠の手を強く引っ張る。
「えっと・・・」
「どうするよ・・・」
「どうするもこうするも・・・」
顔を見合わせる三人。
暫し苦渋に満ちた表情で思案していたが一斉に頷く。
「えっと・・・翡翠ちゃん・・・琥珀ちゃん」
「あ〜雪」
「小夜ちゃん・・・その・・・」
「「「ごめん(わるい)!!!!」」」
一斉に手を振りほどくととっさで何がなんだかわからず呆然としている翡翠達を置き去りにして、男の子達と共に走り去った。
「来てくれると信じていたよ!!」
「やっぱり志貴だよなぁ〜」
「これで俺達の勝ちだぜ!」
「なあ晃、誠!!」
男の子達は全員満面の笑みで出迎える。
「まあ・・・俺達もあれだけは勘弁して欲しいから・・・」
「僕も同感」
「翡翠ちゃん達には悪い事しちゃったけど・・・」
「ああ、雪にも悪い事したよな・・・」
「うん、小夜ちゃん怒るだろうな・・・」
「でも・・・」
「ああ」
「そうだよね・・・」
やっぱり命は惜しい。
ただしその選択はある意味失敗であった。
一方・・・王漸の屋敷では
「義姉さん、やっぱり男の子達は御館様の方に付いたわ」
女の子達を引き連れて帰ってきた妃が真姫に報告を入れる。
「まあそれは仕方ないけど・・・それよりも志貴達は?」
「ええ、今翡翠ちゃん達に説得に向かわせているから」
「そう、なら大丈夫ね。志貴が二人のお願いを断る筈ないから。それと晃君と誠君は?」
「雪ちゃんと小夜ちゃんにお願いしているわ」
「ならますます問題ないね」
富美も満足そうに頷く。
「そうね。これで戦力バランスは私達に有利に傾く筈・・・」
が、外が騒がしい。
「あら?何かしら?」
と、そこに女の子の一人が駆け込んできた。
「あ、ま、真姫様!た、大変!!」
「どうしたの?」
「ヒスちゃん達が大泣きして帰ってきたの!!」
「ええっ?」
王漸の家の前では女の子達が必死になって蹲って泣きじゃくっている翡翠達四人を慰めていた。
だが、ショックの大きさからなかなか泣き止まない。
「翡翠!琥珀!」
「小夜、雪、どうしたんだい?」
そこに駆けつけてきた真姫と富美の顔を見るなり
「「お母さん!!うわああああん!!」」
「お婆ちゃん・・・ひっく・・・」
「うええええええん!!!」
泣きながら抱きつく。
「どうしたの?翡翠?琥珀?」
おおよその予測は付いたがそれでも実の息子以上に溺愛する愛娘達に尋ねる。
「志貴ちゃんが・・・志貴ちゃんが・・・」
「もう・・・食べてくれないって・・・嫌われちゃった・・・」
それだけ言うと大粒の涙をぼろぼろ零して真姫にしがみついて再度泣き出す。
「もしかして・・・あんた達も」
「うん・・・お婆ちゃん・・・」
「もう誠・・・あたしの事・・・嫌いになったんだ・・・」
しゃくりあげながら雪と小夜も答える。
「・・・困った子ね志貴も」
そんな周囲の空気が真姫の一言と共に凍てついた。
全員が真姫を中心として円を描くように退く。
唯一の例外は真姫にしがみついていた翡翠・琥珀だったが二人はその変貌を至近で目の当たりにしてしまった為、足がすくんでしまっているだけだった。
後に全員が口を揃えてこう言った。
『あの時だけ真姫が紅赤朱に見えた』と・・・
「仕方ない子ね・・・翡翠、琥珀、大丈夫よ・・・志貴にはお母さんがしっかりお説教してあげるから・・・さて、妃」
「!はい!!」
真姫の空気に完全に呑まれた妃が直立不動で応じる。
「直ぐにして欲しい事があるの・・・」
「判りました!!義姉さん!!私は何を!」
「ええ・・・」
ひそひそ耳打ちをする。
「いい?直ぐに取り掛かって」
「はい!!み、皆行くわよ!!」
『はい!!!』
妃と女の子達が怯えた表情のまま、駆け足で林の方に向かう。
「さてと・・・じゃあ翡翠・琥珀」
「「はい!!」」
二人も直立不動で応ずる。
「皆のご飯を作りましょう。お手伝いしてくれる?」
「「はい!!!」」
「いい返事ね」
そう言って二人の頭を撫でる。
だが、翡翠も琥珀も怯えた表情を崩そうとしない。
ブルブル震えている。
「??どうしたの二人とも」
「真姫、あんた少し落ち着きなさいって」
「えっ?あらやだ。私ったら」
富美の指摘にやっと真姫の周囲の空気が柔らかくなる。
「あたしも久しぶりに見たね」
「ごめんなさい。少し熱くなったようね」
「あたしですら一瞬たじろくんだ。見慣れていない妃達が怯えるのも当然だろうね」
そうかつて真姫が短い現役時代『能面』の異名で呼ばれていた事は全員知っている。
だが、現役期間の短さゆえにその『能面』の恐ろしさを知っているのは年長組と現世代、子供の中では息子の志貴位だろう。
「取り敢えず真姫、あんた妃に何を命じたんだい?」
「ええ、少し罠の増設を溜池の方に」
「罠?・・・あんたまさか」
「戦力は御館様の方が上である以上、なりふり構っていられません。出来れば持久戦に持ち込めば望ましいのですが混血の襲撃がその間に起こればそれも事です。そうですね・・・今日を含めて三日で決着を着けます」
そう言って琥珀達四人を引き連れて屋敷に入っていく真姫。
その後姿を見て富美は溜息をついた。
「やれやれ真姫が本気で潰しの戦略を立て始めたね・・・こりゃ男達には地獄しか末路は無いね」
一方・・・夜も更け始めた頃
屋敷ではどんちゃん騒ぎが起きていた。
「よ〜し!!志貴達が来た以上俺達の勝ちは決まったも同然だな!」
「ざまあみやがれ!」
男達が前祝だとばかりに宴会を開いていた。
酒こそ無いが皆その場の空気で酔っていた。
男の子達もその大騒ぎに混ざっている。
だが、奥の当主の間では食事もそこそこに黄理・楼衛・王漸・志貴・晃・誠の六人が戦略を練っていた。
「母さん達が王漸叔父さんの屋敷に立て篭もっているって事は周囲の家が問題になってくるよね?」
「ああ、何処から攻め込もうにも伏兵は覚悟しないとならない」
「かといって路地裏から単独で忍び込むのはもっと問題あるよな」
「晃の言うとおりだ。おそらく女達は既に捕獲用の罠を仕掛けている筈だ。何しろ向こうには妃がいる」
「お母さん罠つくりの腕前は七夜一だから」
「だが、このまま、指をくわえている訳にも行かんぞ。持久戦になれば食料の手持ちの少ない俺達が不利だ。おまけに下手に長引かせて混血の襲来を受けて一族全滅なんて洒落にもならん」
「それは向こうもわかっているだろう。森の各所に遠見を配する事は向こうに伝え、それはもう了承している」
「そうだな。それでも時間はかけられんぞ」
「ああ、長くても一週間が限界だな」
「じゃあ強行突破しか無いわけだね・・・」
「今はな。他に意見はあるか?」
無言になる。
「よし、では少しづつ戦線を押し上げて家屋密集地帯を包囲ししかる後、全侵攻ルートから侵入し可及的速やかに女達を鎮圧する。これを基本戦略とする」
『はい』
頷く。
「よし、これで一旦軍議は終える。進軍については」
だが、その時
「し、失礼します!!」
声より前に襖が開いた。
「おい!!何をしている!当主の間だぞここは!!」
楼衛がその無礼を一喝する。
「も、申し訳ございません!で、ですが・・・」
「なにがおきた?もしや、混血の襲撃か?」
その最悪の予想にこの場にいた全員の腰が浮く。
「い、いえ、そうではございません!で、ですが、一大事です。み、水場が女達に完全に抑えられました!!」
『なんだと!!!』
全員一斉に立ち上がった。